ロイヤルカスタマーの育成事例

ロイヤルカスタマー戦略とは、多大な利益をもたらすロイヤルカスタマーを増やす戦略のことです。ロイヤルカスタマーは、自社商品の世界観やブランドイメージに共感をしており、簡単に他社へは乗り換えません。

継続的な購入や口コミによる拡散効果も望めるため、企業にとっては重要な存在です。しかし、マーケティングの仕事に携わっていない限り、ロイヤルカスタマー戦略に関して知らない方も多いでしょう。

今回は、ロイヤルカスタマー戦略の企業事例を交えながら、メリットや育成方法などについて解説します。

ロイヤルカスタマー戦略とは

ロイヤルカスタマー

ロイヤルカスタマー戦略とは、自社商品やサービスに対して愛着を寄せているロイヤルカスタマーを増やしていく戦略のことです。ロイヤルカスタマーは、ブランドイメージや企業コンセプトに共感しており、商品やサービスの購入に特別な価値を見出しています。

リピート率や購入単価が高く、企業にとって非常に重要な存在です。ロイヤルカスタマーを増やすためには、ロイヤルカスタマーの明確化や顧客ロイヤリティの測定など、さまざまな作業が必要になります。

ロイヤルカスタマーを育成する方法

ロイヤルカスタマーを育成するためには、顧客ロイヤリティを高めなければなりせん。顧客ロイヤリティは、自社商品やサービスに対しての愛着度を指します。顧客ロイヤリティを高めるポイントは、次の4点です。

ロイヤルカスタマー育成法

・現状の顧客ロイヤリティを把握する
・MAやSFAを導入する
・CXを見直す
・ロイヤルティプログラムを実行する

一つひとつ解説していきましょう。

現状の顧客ロイヤリティを把握する

ロイヤルカスタマーを育成するためには、まず現状の顧客ロイヤリティを把握することが重要です。現状を正確に把握しないと、自社の強みや課題を掴めず、改善策を立てられません。また、顧客ロイヤリティの高さによって、取るべき対策も変わります。

たとえば、顧客ロイヤリティが全体的に低い場合、多くの顧客が商品やCXの品質に満足しません。品質改善や販売チャネルの拡充など、さまざまな角度から改善策を講じてください。

一方、顧客ロイヤリティに偏りが生じている場合、顧客ニーズを正確に把握できていない可能性が考えられます。市場調査やペルソナの再設定など、顧客視点に基づいたマーケティングを徹底してください。

SFAやMAを導入する

ロイヤルカスタマーを一人でも多く育成するためには、既存顧客との関係強化や新規顧客獲得が欠かせません。営業活動の質と量を高めるツールとして、SFAやMAが挙げられます。

SFAとは

SFAはSales Force Automationの頭文字を取った略語のことで、日本語では営業支援システムと訳されます。既存顧客重視のリテンションマーケティングに役立つツールのことであり、顧客情報や案件の詳細、商談の進捗状況など、営業活動全般に関する情報をシステム上で管理します。受注確度の高い案件を一目で把握でき、営業活動の効率化と利益拡大の両立を図れます。

MAとは

MAはMarketing Automationの頭文字を取った略語のことで、マーケティング活動を自動化するツールのことです。見込み顧客を効率的に管理できるツールです。ホームページの閲覧履歴や資料請求の回数、展示会への参加有無など、見込み顧客の行動にスコアを付けます。

スコアの高い顧客は、自社商品やサービスに対して高い関心を示していると把握できます。スコアの算出やメール配信はシステムが行うため、従業員が作業を行う必要はありません。購買意欲の高い見込み顧客へ優先的に接触し、信頼関係構築と継続的な取引へつなげます。

CXを見直す

顧客ロイヤリティを高めるためにも、CXの見直しを行ってください。CXとはCustomer Experience(カスタマーエクスペリエンス)の頭文字を取った略語であり、顧客体験という意味です。

CXは、顧客が商品やサービスと接点を持ってから、購入後までに得られる一連の体験を指します。対面での商品説明やアフターサービスなど、購入前後の体験も含まれている点が、CXの特徴です。

スタッフの接客態度や店内の雰囲気、アフターサービスの質が高いと、リピーターの獲得やブランドイメージ向上につなげられます。一方、CXの質が低いと、「次も利用したい」との気持ちが顧客に生まれず、リピート率や購入単価が伸びません。

顧客ロイヤリティを測定する際、顧客がどの部分に不満を感じているかを分析し、CXの再設定を行ってください。

ロイヤルティプログラムを実行する

ロイヤルティプログラムは、ロイヤルカスタマーに限定したマーケティング内容になります。自社商品への愛着度や信頼感をより一層高めてもらうことが目的です。限定イベントへの招待やギフト券の発行など、高品質なCXを提供します。

ロイヤルティプログラムの実行によって、自社の顧客に対する姿勢をアピールでき、他社との差別化を図れます。また、顧客との信頼関係が強固になり、アップセルやクロスセルの提案が通りやすくなる点も、大きな魅力の一つです。

顧客ロイヤリティを測る指標

顧客ロイヤリティは、自社商品やサービスに対しての愛着度を指します。顧客ロイヤリティが高い顧客は、企業への貢献度や忠誠心が高く、ロイヤルカスタマーと呼ばれます。

ロイヤルカスタマーは、リピート率や購入単価が高く、安定した収益確保が望める存在です。また、自社商品やサービスの利用に特別な価値を見出しており、簡単に他社へ乗り換えません。

一人でも多くのロイヤルカスタマーを確保するためにも、顧客ロイヤリティの把握は企業にとって重要な意味を持ちます。顧客ロイヤリティに使われる指標には、主に次の5つがあります。

指標

・NPS
・LTV
・RFM分析
・顧客満足度
・継続利用意向

指標の特徴や算出方法について解説していきましょう。

NPS

NPSはNet Promoter Score(ネットプロモータースコア)の頭文字を取った略語であり、顧客ロイヤリティを把握するため、頻繁に使用される指標の一つです。回答結果が数値で表示され、わかりやすいことが特徴です。

NPSは、「商品をどの程度家族や友人にすすめたいですか?」との質問を投げかけ、0〜10の11段階で回答をしてもらいます。得られた回答を点数に応じて、次の3つのグループに分類します。

  • 6点以下:批判者
  • 7点以上:中立者
  • 9点以上:推奨者

グループ分けが終わったら、推奨者の割合(%)から批判者の割合(%)を引きます。そして、残った数値がNPSとなります。

NPSが高い=顧客ロイヤリティの高い顧客が多く、安定した収益が望めると判断できます。一方、NPSが低い場合は商品やサービスの品質改善に加え、CXを見直さなければなりません。

NPSは結果がわかりやすく表示されるため、今後の方向性を明確化しやすい点がメリットです。統一された指標で、競合他社との比較にも活用できます。

一方、質問の内容次第で回答内容が大きく変動する可能性があり、質問内容を慎重に設定しなければなりません。また、日本人は中間的な回答を好む傾向にあり、回答内容が偏る可能性も考慮する必要があります。

LTV

LTVはLife Time Value(ライフ タイム バリュー)の頭文字を取った略語で、日本語では顧客生涯価値と訳されます。契約開始〜契約終了まで、一人の顧客からどの程度利益を得られるかを示した数値です。

LTVは次の方法で算出されます。

  • LTV=(平均顧客単価)×(収益率)×(購買頻度)×(継続期間)

また、新規顧客獲得コストと顧客維持コストを含めた形での算出も可能です。計算式は次のようになります。

  • LTV=(平均顧客単価)×(収益率)×(購買頻度)×(継続期間)-(新規顧客獲得コスト+既存顧客維持コスト)

LTVが重要視されている理由は、新規顧客獲得にかかるコストが年々高まっているためです。市場競争が激化しており、機能やスペックで差別化を図りにくい状態となっています。

たとえば、新しい機能を搭載した商品を市場に投入したとしましょう。数ヶ月後には自社と同じ機能を搭載した商品が他社から販売され、顧客側に明確な違いを印象付けられないということがしばしば起こり得ます。結果、似たような商品が複数存在する形になり、価格競争が激化します。

また、インターネット環境の普及に伴い、商品に関する情報は検索エンジンから得られます。詳細なデータを望まない限り、顧客側は必ずしも取引先の営業マンに接触する必要はありません。一方、企業側からすると見込み顧客との接触機会が大幅に減り、新規顧客獲得が非常に困難な状況なのです。

上記の理由から、既存顧客との関係を強化し、LTV最大化を追求する動きが増えました。既存顧客は自社商品やサービスの特徴を把握しており、信頼関係を強化できれば、購入単価やリピート率アップが期待できます。

RFM分析

RFM分析は、次の3つの指標に基づいて顧客ロイヤリティを算出する手法です。

  • Recency(最終購入日)
  • Frequency(購入頻度)
  • Monetary(購入金額)

各指標に対する考え方は、下記の表にまとめたとおりです。

表:RFM分析の各指標

種類定義判断基準や特徴
Recency(最終購入日)・顧客が商品やサービスを最後に購入した日・新しい日付が履歴に残っている顧客をロイヤルカスタマーに設定
・日付が新しい顧客ほど、商品に対する印象が鮮明。積極的に営業を行う対象  
Frequency(購入頻度)・顧客が商品やサービスを購入した頻度
・一定期間を設け、顧客の購買行動の変化を分析
・購入頻度が高く、空白期間が短い顧客を優良顧客と設定
・購入頻度が高い顧客は、商品やCXの質に満足していると判断  
Monetary(購入金額)・顧客が商品やサービスを購入した場合の合計金額・合計金額が多く、購入頻度が高い顧客をロイヤルカスタマーと設定
・合計金額が多い顧客へ優先的に営業を仕掛け、売上を拡大

3つの指標の数値に応じて、グループを3〜5つ作ります。

たとえば、3つのグループを作ったとしましょう。ロイヤルカスタマーや安定顧客、新規顧客に分類できます。もっと細かくグループを分ける場合は、休眠顧客や優良顧客を追加してください。

グループ分けが終わった後は、購買意欲の高さに応じたマーケティングを展開してください。たとえば、新規顧客にはインサイドセールスを駆使して、商品やキャンペーンの情報を発信し、顧客との接点を維持します。

一方、ロイヤルカスタマーには、限定商品の紹介や特別価格での商品案内など、手厚い対応を行い、特別感を演出します。重要なのは、一人でも多くのロイヤルカスタマーを確保することです。

自社商品への関心や購買意欲の高さに応じたマーケティング戦略が求められます。

顧客満足度

顧客満足度は、自社商品やサービスの品質に対して、どの程度満足しているかを可視化する指標です。継続的な評価ではなく、1回の利用に対しての満足度を測ります。アンケートやインタビューによって把握することが一般的です。

顧客満足度は、商品やサービスの品質に問題がないかを確認するための重要な指標です。顧客満足度が低い場合は、機能やスペックなど、アップデートが必要になります。ただし、顧客満足度が高い=顧客ロイヤリティも高いとの図式は成立しません。

顧客満足度は、あくまで商品やサービスを1度利用した顧客が下した評価です。顧客ロイヤリティの高さを測定するには、別の指標と組み合わせる必要があります。

継続利用意向

継続利用意向は、顧客が自社商品やサービスをどの程度継続的に利用したいかを測る指標です。継続利用意向の測定方法は、NPSと同じ手法を取ります。

「今後も商品やサービスを利用していきたいか」といった質問を顧客へ投げかけ、0〜10の11段階で評価をしてもらいます。点数に応じて批判者や中立者、利用者の3グループに分けた後、利用者(%)-批判者(%)によって、継続利用意向を算出します。

継続利用意向率が高ければ、顧客ロイヤリティも高く、安定した収益確保が期待できます。

ロイヤルカスタマー戦略の企業事例

最後に、ロイヤルカスタマー戦略が成功した企業事例を6つ紹介します。今後の参考にご活用してみてください。

  • チューリッヒグループ
  • ナノ・ユニバース株式会社
  • ロクシタンジャポン株式会社
  • ハーレーダビッドソンジャパン株式会社
  • ソニー損害保険株式会社
  • スターバックスコーヒージャパン株式会社

チューリッヒグループ

チューリッヒグループは、世界215ヶ国以上で、自動車保険や火災保険などを販売する企業です。同社の取り組みは、NPSの導入とCXの再設計です。

SMSやEメール、コールセンターなどでNPSを実施し、顧客ニーズの把握に努めました。リアルタイムで分析結果を算出できるよう、テキストマイニングも活用しています。

また、NPSでの結果を基に、コールセンターや自動応答システムの品質向上に努めました。顧客目線での対応徹底やソーシャルスタイル理論の導入によって、状況に応じた顧客対応を実現しています。

結果として、2020年度のカスタマーサポート表彰制度で、特別賞と新型コロナウイルス感染症対策特別賞に輝きました。

ナノ・ユニバース株式会社

ナノ・ユニバース株式会社は、オフィスカジュアルを中心に洋服を販売している企業です。同社の取り組みはロイヤルカスタマー向けにECサイトの改修を行い、CXの質向上に努めた点です。

社長自らが指揮を執り、検索の利便性やリコメンドの視認性向上など、オンライン上での高品質なCXの提供にこだわりました。

結果として、前年同月比売上200%を達成しています。また、2020年からNPSを本格的に導入し、顧客ニーズの把握に努めています。自社の商品企画や製造チーム、販売員が、顧客から汲み取った様々な要望を共有し、新たな商品開発にも活かしています。

ロクシタンジャポン株式会社

ロクシタンジャポン株式会社は、上質なスキンケアやメイク商品などを扱う企業です。同社の取り組みは、マーケティング支援ツールの導入とロイヤルティプログラムの実行です。MAツールの一種「Adobe Campaign」を導入し、実店舗とECデータの統合を図りました。

同社では、元々RFM分析によって算出したデータを基に、優良顧客やロイヤルカスタマーを抽出していました。しかし、実店舗の利用頻度が低い顧客がリストの候補に混じっており、コンバージョン獲得率が伸びませんでした。

Adobe Campaignの導入によって、顧客一人ひとりの購買履歴をシステム上で確認でき、購買意欲の高い見込み顧客が一目でわかる体制を整えました。

結果として、自社商品に関心の高い見込み顧客に優先的に売り込みを掛けられる体制が整い、見込み顧客からの問い合わせ数が、約5倍増えました。また、同社はロイヤルカスタマーに対し、LINE上でロイヤルティプログラムを提供しています。

LINEスタンプの付与や限定サービスの案内などを行い、顧客ロイヤリティ向上に努めています。同社は2013年からLINE公式アカウントを立ち上げていますが、友だちは2,300万人を突破しています。LINE経由での売り上げも年々増加しています。

ハーレーダビッドソンジャパン株式会社

ハーレーダビッドソンジャパン株式会社は、大型バイクを提供する企業です。同社の取り組みは、ライフスタイルに着目したCXの再設計です。

自社商品への愛着を深めてもらえるよう、ロイヤルカスタマー向けにカスタムパーツの製作を始めました。また、女性ライダー向けにライダースジャケットやシャツを販売し、ファッションを楽しむという新たな顧客体験を提供しました。そして、同社の商品を体験できるイベントを開催し、新規顧客獲得に努めています。

イベント開催やマーケティング戦略の内容には、NPSで得られた顧客からの回答を反映しています。結果として、市場シェアは当初の13%から37%にまで拡大しています。

ソニー損害保険株式会社

ソニー損害保険株式会社は、自動車保険や火災保険などを提供する企業です。同社はNPSで得た回答を基に、CXの質改善に着手しました。

アンケートや電話でのヒアリングを行い、顧客ニーズの把握に努め、得られた回答は低評価の口コミも含め、ありのままの状態を公開し、誠実な姿勢を顧客にアピールしています。

また、車両保障に関してWeb上で間違った情報が錯乱していた場合は、顧客に正確な情報をメールで伝え、安心感を与えています。

結果として、NPSの高さを競うNPSベンチマーク調査2021では、ダイレクト型自動車保険部門において1位に輝きました。

スターバックスコーヒージャパン株式会社

スターバックスコーヒージャパン株式会社は、コーヒーやデザートをカフェスタイルで提供する企業です。同社の取り組みはLTV最大化を実現するため、ロイヤルティプログラムを提供していることです。

上記のプログラムはスターバックスリワードと呼ばれ、スターバックスカードで商品を購入し、スターが付与されるシステムです。集めたスターは電子クーポンと交換し、コーヒー豆やデザートを購入できます。

また、新商品の先行購入やコーヒーセミナーへの先行予約など、ロイヤルカスタマー限定のサービスが数多く用意されています。同社のロイヤルティプログラムは好評を集め、会員数は800万人を超えました。

まとめ

ロイヤルカスタマー戦略は、売上拡大やブランディング確立に重要です。自社商品やサービスに特別な価値を見出しているロイヤルカスタマーは、簡単に他社へ乗り換えません。他の顧客よりも購入単価やリピート率が高く、安定した収益確保が望める存在です。

また、ロイヤルカスタマーからの拡散効果も期待でき、コストを掛けずに新規顧客獲得も期待できます。ロイヤルカスタマー戦略を行うためには、MAの導入やCXの再設計など、多くの作業が必要です。

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