決済手段の多様化は、顧客体験価値を高めるとともに、店舗の決済業務を効率化する上でも役に立ちます。そのため、事業に最適な手段の導入が求められています。
中でも注目を集めているのが事前決済の導入で、キャッシュレス決済を実現するための方法としてさまざまな業種での採用が進んでいます。今回は、事前決済の仕組みがどのような場面で役に立つのか、事前決済システムを導入する際のポイントについて解説します。
事前決済とは
その名のとおり、事前決済とは顧客へ商品やサービスを提供する前にお金を支払ってもらう仕組みを指します。
通常、決済は代金の支払いと同時にその対価が消費者に提供されるものですが、近年の技術革新に伴い、先払い方式があらゆる業界で導入できるようになってきています。
事前決済は、基本的に顧客のカード情報を使って支払い手続きを行うことが一般的です。現金払いの場合、先払い方式を仕組み化するには手間がかかりますが、クレジット情報を活用することで、簡単にシステムに組み込むことができます。
そのため、事前決済の導入はキャッシュレス決済の導入に等しいともいうことができ、現金支払い以外の決済手段を導入する方法の一つと考えても良いでしょう。
事前決済導入のメリット
事前決済システムの導入は、導入事業者に多くのメリットをもたらしてくれます。事前決済導入の主なメリットを4つ紹介します。
決済手続きを効率化できる(キャッシュレス導入)
1つ目のメリットは、決済手続きを効率化できる点です。事前決済の導入によって、店舗や会場では現金のやり取りやカードの読み取り手続きが必要なくなるため、レジ業務の負担は大幅に軽減されます。
必要なものは、事前決済の際に発行したレシートやQRコードといった媒体だけなので、これらを確認できる手段さえあればレジの混雑を極力回避することができます。
どんなビジネスであっても顧客単価が高くなることに越したことはありませんが、実店舗の場合はネックとなるのがレジ業務の長時間化です。顧客が買った商品点数が多いほど、レジ業務の負担が大きくなるため、多くの人を待たせてしまい、顧客満足度の低下につながるリスクがあります。
事前決済であれば、すでに決済が完了した状態でお店に来てもらうことができるため、支払いの必要はなく、商品を渡すだけで手続きは完了します。決済情報をもとに商品を用意しておけば良いため、欲しい商品を探すためにあれこれと探し回る負担も発生しません。
また、事前決済はキャッシュレスの支払い方法で導入することが一般的であるため、クレジットカードなどの支払い方法を導入する糸口としても重要です。
近年はクレジットカード以外のキャッシュレス決済手段が充実しているため、顧客にあった支払い方法を選んでもらえるようにもなってきました。QRコード決済や、交通系ICカードによる決済など、幅広い方法を選べる点も有効活用したいところです。
売上増加に貢献する
2つ目のメリットは、売上増加に貢献する点です。事前決済システムを導入するにあたって、クレジットカード決済の仕組みを必然的に採用することになるため、これまで現金払いにのみ対応していた店舗ではクレジット利用者の新規顧客獲得を進められます。
また、毎日長蛇の列ができていてその行列に並ぶのが億劫で購入をためらっていた人も、事前決済によって当日受け取りが可能であることを知れば、新しい顧客となってくれる可能性もあるでしょう。店舗への負担を抑えながら、顧客の待ち時間が解消され、好きなタイミングで商品を受け取れるため、高い利便性を実現できます。
さらに、夕方や午前中などの一部の時間にお客さんが集中することで現場が混乱に陥ったり、店舗を有効活用できなかったりする事態を、事前決済によって受け取り時間をあらかじめスケジュールしておけば未然に回避することができます。
事前決済はキャッシュレス決済導入による集客力の向上はもちろん、店舗を訪問するストレスを解消し、新規顧客やリピーターの獲得にも貢献できることが特徴です。
顧客データの収集と活用につながる
3つ目のメリットは、顧客データの収集と活用を推進できることです。顧客のニーズに応え、リピーターを獲得することはあらゆる業界でもとめられている取り組みですが、そこで役に立つのが顧客データです。
顧客の購入履歴や購入時間などが把握できるようになれば、その顧客がどのような商品を求めているかが客観的に把握できるようになります。
また、店を利用する顧客全員のデータを分析することで、繁忙期や売れ筋の商品をリアルタイムで把握でき数値化できるため、経営者の勘に頼ることのない客観性のある意思決定が可能となります。
データ活用と聞くと専門的な施策のように感じるかもしれませんが、最近では決済システムのハイテク化により、データサイエンスに明るくない事業者でも簡単に利用できる分析ツールも登場しています。個人でも利用可能なツールをフル活用し、効率的な業務を実現しましょう。
無断キャンセル(No Show)対策ができる
4つ目のメリットは、予約者の無断キャンセル対策が行える点です。
無断キャンセルは巷では「No Show」ともいわれており、飲食店を中心に経営者の頭を悩ませている深刻な問題です。特に大人数での予約キャンセルは店側の売上に多大な悪影響を及ぼすだけでなく、仕入れコストの圧迫にもつながるため、事業者はなんとしても回避したい事態です。
経済産業省と業界団体が発表したレポートによると、無断キャンセルによって国内の事業者に与えている被害額は年間2,000億円にものぼり、深刻な社会問題となりつつあることがわかっています。無断キャンセルは道徳的な問題を抱えている行為であるだけでなく、経済的にも多大な損失につながることから、その対策方法の模索が進んでいます。
参照元:No show(飲食店における無断キャンセル)対策レポートが発表!(経済産業省)
最近では、予約の際にクレジットカード情報の入力を求め、無断キャンセルの際に自動でキャンセル料金が発生する仕組みを導入する店舗も増えてきており、事前決済はそんなNo Show対策においても効果を発揮しています。
事前決済は、商品を提供する確約と引き換えに、代金の支払いを受けられる仕組みです。そのため、仮に商品の受け取りに購入者が訪れなかった場合も、すでに代金の支払いを事業者は受けているため、事業者が損をすることはありません。
事前決済による無断キャンセル対策は、ただ無断キャンセルを回避するための施策として機能するだけでなく、顧客満足度を高めたり、売上を改善したりするための施策としても機能するため一石二鳥の取り組みです。
事前決済の活用に適した業種
事前決済はあらゆる業界において有用な取り組みであるとまではいえませんが、多様な業界で活躍できる仕組みであることは間違いありません。ここでは、事前決済と相性の良い業種の例を紹介します。
飲食店
事前決済導入が近年進んでいる事業の例としては、飲食店が挙げられます。事前にコース料理の予約や持ち帰り商品の予約をネット上で行い、代金の支払いも完結させることで、無断キャンセルによる損失を防ぎ、混雑を回避し、適切な量に仕入を行い食品ロスの削減につなげられます。
当日用の席や商品の用意もありますが、人気店となれば事前予約の席や注文の割合を増やすことで、安定した集客と売上を確保でき、ブランド力の向上にもつながるため、非常に効果的です。店舗によっては完全予約制としているところも多く、事前決済システムを導入することで、完全予約制でも無断キャンセルによるリスクを回避することができます。
ツアー・旅行代理店
ツアー企画会社や旅行代理店も、事前決済導入による恩恵の大きな会社です。元々ツアープランの購入などは料金前払いが文化として定着していたこともあり、事前決済システムの導入による弊害も小さいことが特徴です。
キャッシュレス決済に特化した事前決済システムの導入により、決済業務の負担を軽減し、窓口の業務効率化や支払い手順の簡素化により、集客力の向上を期待できます。
宿泊施設
宿泊施設においても、近年は事前決済による宿泊客の獲得が主流となりつつあります。代理店などを介さない宿泊予約の場合、予約客の無断キャンセルによって空き部屋が生まれてしまい、大きな損失となるケースも少なくありませんでした。
しかし、事前決済を標準的な決済方法として導入することで、無断キャンセルを回避して収益性を安定させられるだけでなく、空室管理を適切に行い、満室続きの人気施設として成長することができます。
ジム・スクール
ジムや習い事ができる各種スクール業においても、事前決済システムは好評を博しています。予約時点で代金の支払いが発生することで、無断キャンセルによる損失を回避できるだけでなく、予約者のモチベーション維持にも役立ちます。
これらの施設は、いずれも継続的にユーザーに利用してもらうことが重要となるため、ある程度強制力を持った仕組みを採用することが事業者にとっても、消費者にとっても利益となります。「せっかく予約したのだから足を運ぼう」という気持ちを事前決済によって後押しすることで、予約者の目標達成を力強く後押ししてくれます。
事前決済サービスを運用する際のポイント
事前決済サービスを導入する際には、次の3つのポイントをあらかじめ把握しておくことにより、システムを有効活用することができます。
ニーズに合った決済方法を導入する
1つ目のポイントは、事前決済サービスを導入する際には、顧客ニーズに適した決済方法を導入することです。事前決済システムは基本的にキャッシュレスでの運用となりますが、ターゲットとなる顧客がクレジットカードを持っていないケースが多い場合、その運用が難しくなる可能性があります。
特に、若年層や高齢者をターゲットとした事業の場合には、キャッシュレス決済の方法は限定されてしまうため、彼らにとって最適な決済方法の導入が求められます。近所の高齢者向けに事前決済制度を普及する上では、例外的に現金での事前決済にも店舗で対応するなどして、柔軟に事前決済システムを定着させる仕組みも検討することが大切です。
キャンセルポリシーを明確にする
2つ目のポイントは、キャンセルポリシーを明確に定めることです。確かに、事前決済サービスは無断キャンセルの予防にはつながるものの、事前に断りを入れてのキャンセルや、止むを得ない事態によるキャンセルについては認める方針を取らなければ、トラブルの原因となってしまいます。
たとえば、店舗への悪影響が小さい1週間前のキャンセル申込については無料で許可をする、あるいは半額でのキャンセル手数料で対処するなど、何らかの措置をあらかじめ定義づけておくことが大切です。あまりにもキャンセルの要件が厳しいと、逆に集客へ悪影響を与えてしまう場合もあるためです。
あるいは、自然災害によって交通機関が麻痺してしまったり、店舗の自己都合によって予約者を受け入れられなかったりする場合には、無料でのキャンセルが行えるようポリシーを定めておくことも大切です。
予約者の自己都合ではなく、客観的に見て商品の提供が受けられない状況の場合でも返金を行えないとなると、詐欺などの罪に問われることもあります。無断キャンセルには毅然とした態度で臨むべきですが、店舗のブランド価値を損なわないためのキャンセルポリシー採択には注意しておきましょう。
セキュリティ対策を強化する
3つ目のポイントは、セキュリティ対策を徹底することです。事前決済に伴い、店舗で顧客のクレジットカード情報などを扱う機会が増えるため、これらの情報を正しく管理する体制を整える必要があります。
決済機能については外部の専門サービスに委託してその管理を任せるなどして、店舗から情報が漏洩してしまわないような仕組みづくりに力を入れましょう。
まとめ
事前決済システムを導入する上でのメリットや、それに伴う注意点について解説しました
事前決済の仕組みを整えることで、安定した収益性を確保したり、無断キャンセル対策を徹底できたりするなど、多くのメリットを期待できます。 自社に適したシステム構築に向けて、必要な仕組みづくりを進めていくと良いでしょう。